東京高等裁判所 昭和62年(ラ)399号 決定 1988年1月29日
抗告人
興銀リース株式会社
右代表者代表取締役
八幡輝雄
右代理人弁護士
真鍋能久
相手方
有限会社上野孝工務店
右代表者代表取締役
上野孝
主文
一 原決定を取り消す。
二 抗告人を債権者、相手方を債務者とする水戸地方裁判所下妻支部昭和六一年(ヨ)第一号建設機械仮処分申請事件について、抗告人が昭和六一年一月一三日水戸地方法務局下妻支局に供託した金一八〇万円(供託番号昭和六〇年度金五八二号)の担保は、これを取り消す。
三 抗告費用は相手方の負担とする。
理由
本件抗告の趣旨は、主文第一、二項同旨の決定を求めるというのである。抗告人の本件担保取消申立ての理由は、原決定理由一項に摘示されている(決定書一丁裏初行から一一行目まで)とおりであり、また、川崎重工業株式会社が抗告人からその申請に係る本件仮処分決定後にその目的物たる本件建設機械を譲り受け、仮処分債務者たる相手方を被告として本件建設機械の引渡しを求める訴訟に勝訴し、その判決が確定したという事実認定は、原決定理由二項中に説示されている(決定書一丁裏末行から二丁裏二行目まで。同丁表一一行目「有限会社上野孝工務店に対して」の下に「所有権に基づき」を加える。)とおりであるから、右摘示及び説示を引用する。
右引用の原決定認定の事実関係からすると、本件仮処分の本案訴訟は、所有権に基づく本件建設機械の引渡請求権と解することができる。そうすると、本件建設機械の所有権が抗告人から川崎重工に移転したのに伴つて、仮処分債権者としての適格も同じく同社に承継されたものというべきであり、同社が相手方に対する所有権に基づく本件建設機械引渡請求訴訟に勝訴し、その判決が確定しているのであるから、結局仮処分債権者が本案訴訟に勝訴したことに帰着し、これは、民事訴訟法第五一三条第二項において準用する同法第一一五条第一項の「担保ノ事由止ミタルコト」に該当する。
もつとも、右のように仮処分債権者の承継があつた場合には、担保取消しの申立ては承継人がすべきではないかという問題があるけれども、一件記録によれば、承継人たる川崎重工は、本件仮処分の保証供託金の取消請求権を特に抗告人のもとに留保していることが認められ、この認定に反する証拠はないから、抗告人の本件担保取消申立ては理由がある。
よつて、本件担保取消申立てを却下した原決定は不当であるからこれを取り消し、右申立てを認容し、抗告費用は相手方に負担させることとして、主文のように決定する。
(裁判長裁判官賀集唱 裁判官安國種彦 裁判官伊藤剛)